The River : Bruce Springsteen

2012年10月18日




 今夜はどうだい?
  <歓声>
 よかった……そりゃ、よかった

 これは……俺がまだガキだった頃、親父といつもぶつかり合ってた。どんな事でもね。
 その頃は髪が長かったんだ。肩より下まであったよ、十七、八の頃さ。
 親父はそれが気に入らなくて、それでまたケンカさ。だから、俺はよく家の外で過ごした。

 夏は暖かいからいいんだよ、友達も外にいたしね。
 でも、冬は町にいるとすごく寒かった。風が強くて、俺は電話ボックスに立ちっぱなし。
 よく彼女に電話したよ。四時間もね。一晩中話してた。

 最後は勇気を振り絞って家に帰るんだ。家の前に立つと、親父が台所で待ってる。
 俺は髪を襟の中にたくし込んで、中に入る。親父が俺を呼ぶ。ここに座れって。
 親父はいつも最初に尋ねた。お前はいったい自分をどうしたいと思ってるんだ?
 この話の最悪なところは、俺がそれに答えられなかったってことさ。

 一度、オートバイで事故を起こした。
 俺はベッドから動けない。親父は床屋を連れてきて、俺の髪を刈らせた。
 覚えてるよ。俺は、大嫌いだ、絶対忘れないからって言ってやった。
 親父はよく俺に言った。おい、早くお前が徴兵されないかな。
 軍隊がお前をまともな男にしてくれるだろう。丸刈りにして、お前を男に変えてくれるよ。

 それから、これは、たしか'68年だった。たくさんの男が、隣近所から、ベトナムへ行った。
 最初のバンドのドラマーも海兵隊の制服を着て俺の家に寄った。
 出征するんだが、行き先も知らなかった。
 たくさんの男が行った。たくさんの男が帰って来なかった。
 戻って来れた多くも、前とは違う姿になってた。

 徴兵検査の通知が来た日のことはよく覚えてる。家族には隠してた。
 検査の三日前から俺は友達と出かけ、夜通し一緒に過ごした。
 そしてその日、俺たちはバスに乗った。うん、みんなすごく恐かったんだ。
 行ったけれども俺は落とされた。家に帰れたんだ。
  <歓声>
 誉められたことじゃないよ。

 三日ぶりに家に戻った。台所に行くとお袋と親父が座ってた。
 親父が言った。どこに行ってたんだ? 俺は答えた。徴兵検査だよ。
 親父が言った。どうなったんだ? 俺は答えた。俺はいらないんだってよ。

 そして親父は言ったんだ。「そりゃ、よかった」


I come from down in the valley
俺はあの谷間の方の出なんだ
Where, mister, when you're young *1
子どもの頃から
They bring you up to do like your daddy done
父親と同じように生きることをしつけられるような所さ

Me and Mary, we met in high school when she was just seventeen
俺とメアリーは高校の時に出会った。彼女は十七だった
We'd ride out of that valley down to where the fields were green
俺たちはよくバイクで谷を出て、緑の草原に行った

We'd go down to the river and into the river we'd dive
川にそって走った。川で泳いだ
Oh down to the river we'd ride
川にそって走ったんだよ

Then I got Mary pregnant and, man, that was all she wrote *2
俺はメアリーを孕ませた。そこで物語は終わったんだ
And for my nineteen birthday I got a union card and a wedding coat
十九の誕生日に労働組合証と結婚式用の上着をもらった
We went down to the courthouse and the judge put it all to rest *3
俺たちは裁判所に届けに行った。後は判事が全部やってくれた
No wedding day smiles, no walk down the aisle, no flowers, no wedding dress
晴れの日の笑顔もない。礼拝堂を歩くこともない。花もない。ウェディングドレスもない
That night we went down to the river and into the river we'd dive
その夜、二人で川へ行き、二人で泳いだ
On down to the river we did ride
川にそってバイクを走らせた

I got a job working construction for the Johnstown Company *4
ジョンズタウン社で建築の仕事についた
But lately there ain't been much work on account of the economy *5
でも近頃じゃ不景気で仕事がなくなってきた
Now all them things that seemed so important
大切に見えてたことが、今はみんな
Well mister, they vanished right into the air
空しく消えて行った
Now I just act like I don't remember, Mary acts like she don't care
俺はそれを忘れたふりをしてる。メアリーは気にしないふりをしてる

But I remember us riding in my brother's car
でも俺は覚えてる。兄貴の車で二人でドライブしたんだ
Her body tan and wet down at the reservoir
彼女の日焼けした肌が水に濡れた貯水池
At night on them banks I'd lie awake
夜、堤防に寝ころがって
And pull her close just to feel each breath she'd take
彼女を引き寄せた。彼女の息を感じたかった
Now those memories come back to haunt me, they haunt me like a curse *6
こんな思い出が俺につきまとう。呪いのように俺を悩ます

Is a dream a lie if it don't come true
実現しない夢は偽りになるのか
Or is it something worse
それとももっと悪いものなのか
That sends me down to the river though I know the river is dry
でも、その夢が俺を川へと導く。川は枯れてると分かってるのに
That sends me down to the river tonight
川へと導くんだ、今夜も

Down to the river, my baby and I
川にそって、可愛い彼女と俺は
Oh down to the river we ride
俺たちは川にそって走る


※曲前の語りの部分は下のサイトに掲載された英文を訳した。
 QUOTATIONS: Family, war, & love in Bruce Springsteen's preamble to 'The River'


備考
  1. mister : 呼びかけの言葉
  2. That's all she wrote. : それでおしまい。以上。万事おしまいだ。「物語が終わってもうこの後はないこと」「突然に何かが終わってしまったこと」等を示す慣用句。
    man : *1 と同じ
  3. ※アメリカの婚姻手続は<役所で結婚許可書を取得→結婚式で許可書に立会人が署名→それを別の役所に提出>となっているらしい。立会人は州の認可を受けた聖職者や裁判官・役人などで、教会で結婚式を行なわない場合裁判所や役所でも簡易な式を執り行ってくれるらしい。行政に宗教が完全に入り込んでいるさまは、大統領選で宗教が重要なテーマになるのと同様、日本の政教分離とアメリカの政教分離の観念が異なっていることを示している。
  4. ※ジョンズタウンはペンシルベニア州(ニューヨーク州とニュージャージー州に隣接)南西部の都市。1950年代まで6万人を超えていた人口はその後漸減し、2010年には2万人にまで過疎化している。
  5. on account of : ~の理由で、~のせいで、~の利益のために、~のためを思って
  6. haunt : よく訪れる、心に絶えず浮かぶ・付きまとう・悩ます、幽霊がよく現れる
    curse : のろい、呪文、のろいの言葉、悪罵、悪態、たたり、わざわい


 1980年のアルバム The River より。1949年生まれのスプリングスティーンが30歳頃の作品です。この歌詞には Blinded By The light(1973年)の奔流のような饒舌や Born To Run(1975年)の強烈な情熱の鼓動はありません。主人公の「俺」がどんな夢を抱いていたのかは明らかにされず、メアリーがどんな女なのかも語られません。一人称なのにどこか鳥瞰的に描かれた物語のように見えます。経済的に衰微しつつあるペンシルベニア州の片田舎。バイクに乗るか川で遊ぶくらいしか娯楽のない谷間の町。夢など持ち得そうにない風景が目に浮かぶようです。

    johnstown.jpg

 ジョンズタウンは上の写真のように南北に流れる川沿いに作られた盆地の町です。私の故郷も盆地で、周りの山がもっと高いですが少し似ています。冒頭の down in the valley はこの町を指しているのでしょう。そうすると、ここで誰かに昔語りをしている今、この男とメアリーはジョンズタウンを離れていることになります。仕事がなくなり故郷を離れたもののあまりうまく行かず、悶々としている様子が伝わってきます。いつも川と共にあった前半生、メアリーとの思い出、二人で語り合った夢。この男にとって川こそが自分の運命を縛る鎖であり、同時に自分を支える土台なのではないでしょうか。



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