Story of Isaac

2014年12月18日

Story of Isaac : Leonard Cohen




The door it opened slowly, my father he came in, I was nine years old.
戸がゆっくりと開き、父が入って来た。私は九つだった。
And he stood so tall above me, his blue eyes they were shining and his voice was very cold.
父は私の上に聳え立った。その青い瞳は輝き、その声はとても冷たかった。
He said, "I've had a vision and you know I'm strong and holy, I must do what I've been told."
そして、言った。「私は主の御心を幻視した。私はとても信心深い。私は教えに従わねばならない」
So he started up the mountain, I was running, he was walking, and his axe was made of gold. *1
父は山に登り始めた。私は走った。父は歩いた。父の持つ斧は金でできていた。

Well, the trees they got much smaller, the lake a lady's mirror, we stopped to drink some wine.
登るに従い木々はどんどん小さくなった。湖は女の鏡のようだ。私たちは立ち止まり葡萄酒を飲んだ。
Then he threw the bottle over. Broke a minute later and he put his hand on mine.
父は壜を遠くに投げた。一分も経ってその割れ音がすると、父は手を私の手に重ねた。
Thought I saw an eagle but it might have been a vulture, I never could decide. *2
鷲が見えたような気がした。だが、禿鷲だったかもしれない。私には結論が出せなかった。
Then my father built an altar, he looked once behind his shoulder, he knew I would not hide. *3
父は供物を捧げる祭壇を作った。一度肩越しに私を顧みた。ただ、私が逃げ隠れなどしないと知っていた

You who build these altars now to sacrifice these children, you must not do it anymore.
あなたたちは今、この子らを供犠とするために祭壇を作っている。しかし、もうやってはならない
A scheme is not a vision and you never have been tempted by a demon or a god. *4
謀り事は御心の幻視ではない。そして、あなたたちは悪魔にも神にも誘惑されたわけではないのだ
You who stand above them now, your hatchets blunt and bloody, you were not there before, *5
あなたたちは子らの上に立ち、その斧は鈍く血なまぐさい。あなたたちはかつてそこにはいなかった
when I lay upon a mountain and my father's hand was trembling with the beauty of the word.
そう、私が山の上に横たわっており父の手が主の御言葉の美しさに震えていた時には

And if you call me brother now, forgive me if I inquire, "Just according to whose plan?" *6
あなたたちが私を兄弟と呼ぶのなら、こう問うことを許してくれ。「誰の目論見に従っているのか」
When it all comes down to dust I will kill you if I must, I will help you if I can. *7
すべてが塵へ帰する時、定めなら私はあなたたちを殺す。でき得るならあなたたちを助ける。
When it all comes down to dust I will help you if I must, I will kill you if I can.
すべてが塵へ帰する時、定めなら私はあなたたちを助ける。でき得るならあなたたちを殺す。
And mercy on our uniform, man of peace or man of war, the peacock spreads his fan. *8
私たちの軍服に対する憐れみ。平和に生きる人間または戦争に生きる人間。孔雀は羽を広げる


備考
  1. axe = ax : 斧、鉞、戦斧(いくさおの・せんぷ)
  2. ※ eagle は「狩りをする大型の猛禽類。鷲」、vulture は「ハゲワシ・コンドルなど狩りをしない死肉食の大型猛禽類」を指す。
  3. altar : 祭壇、供物台、聖餐台
  4. tempt : 誘惑する、誘って連れ出す、欲望をかき立てて誘い込む
  5. hatchet : 手斧、北米原住民の鉞(まさかり)・戦斧(tomahawk)
    blunt : (刃などが)鈍い、なまくらの、丸い、ずんぐりした
    bloody : 血の、血で汚れた、血まみれの、流血の、血なまぐさい、残虐な、残忍な
  6. inquire : 聞く、尋ねる、問う
    ※ ask …一般的に「質問する」 inquire …改まった形式的もしくは公的な質問 question …何度も繰り返し尋ねる
    ※ "call me brother" は、イサクを先祖とする、即ち同じ神を信仰するという意味ではないだろうか。
  7. ※ must は「しなければならない、すべきである…当為」と「する運命にある…必然」の両義があり、can は「能力がある」「可能である」「許可される」「起こり得る、あり得る…可能性」などの意味がある。また、ここでの will が意志未来なのか単純未来なのか判断がつかなかったが、一応意志未来で訳した。
  8. ※マタイ伝(10-34)のイエスの言葉に「地上に平和をもたらすために私が来たと思うな。平和ではなく剣を投げ込むために来たのである」とある。
    ※ *2 の鷲や禿鷲は軍隊や戦争を貪る人間を隠喩しているように見える。一方、孔雀が直接に平和を隠喩しているとは思えないが、鷲・禿鷲とは対照的に使われているのだろうとは思う。


 1969年のアルバム "Songs from a Room" より。
 旧約聖書『創世記』には太祖と称されるユダヤ人の先祖の物語が記されています。この歌はそのうちのアブラハムとその子イサクを素材として書かれたものです。ユダヤ人の始祖とされるアブラハムは、信仰の試練として「イサクを生贄として捧げよ」と神から命じられます。神の指定したモリヤの山にイサクを連れて登ったアブラハムがためらいながらもイサクの上に斧を振りかざした瞬間、天使が舞い降りてイサクを止め、アブラハムの信仰心の真正さを神が祝福します。
 この歌詞はイサクの一人称で語られています。そして、前半は聖書の記述にある程度沿った二人の行動描写ですが、後半は現代に蘇ったイサクが私たち現代人に対して語っているような印象を受けます。ここから想像できるこの歌の主題は、「現在私たちは子供たちを何かの生贄にしており、それは人間のあるべき姿ではない」というものではないかと思います。とくに、子供を若者にまで敷衍すれば若者を戦争の犠牲にしてはならないと歌っているようにも見えます。
 アブラハムとイサクが登ったモリヤ山はユダヤの伝承では神殿の丘(シオンの丘)とされています。ここは、ユダヤ教及びキリスト教の聖地であるとともにムハンマドが昇天した場所としてイスラム教の聖地でもあり、また、古代から現代に至るまで諸国諸民族の侵略を受け多くの血が流された場所です。神殿の丘は現在パレスチナ自治政府が管理しており、ユダヤ教徒はここで祈りを捧げることはできません。そして、ユダヤ=イスラエルの祖であるイサクにはイシュマエルという異母兄がいましたが、このイシュマエルはイスラム教ではアラブ人の祖とされています。ユダヤ教徒であるレナード・コーエンの目には神殿の丘は戦争の象徴のようにも見えるのではないでしょうか。
 ただ、隠喩に富んだ歌詞の細部には意味の分からないところが多く、彼の真意は実はよく理解できません。



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