気に入った洋楽の歌詞を和訳しています。

Englishman In New York : Sting



I don't drink coffee I take tea my dear *1
コーヒーは飲まない。お茶を嗜むんだ
I like my toast done on one side
トーストは片面焼きの方がいい
And you can hear it in my accent when I talk
このしゃべり方で分かると思うけれど
I'm an Englishman in New York *2
私はイングランド人さ。ここニューヨークに居ても

See me walking down Fifth Avenue
五番街を歩く私を見てくれ
A walking cane here at my side
ステッキは欠かせない
I take it everywhere I walk
どこへ行く時も使うんだ
I'm an Englishman in New York
ニューヨークに居ても私はイングランド人だ

※ I'm an alien, I'm a legal alien *3
私は外国人。合法的な在留外国人
I'm an Englishman in New York
私は、ニューヨークに居るイングランド人さ
I'm an alien, I'm a legal alien
I'm an Englishman in New York ※


☆ If "Manners maketh man" as someone said *4
「人は出自ではなく礼節や振る舞いにより価値が決まる」のだとしたら
Then he's the hero of the day
彼は、今の時代では "英雄" にも等しいほどの存在
It takes a man to suffer ignorance and smile *5
"男" たる者は、無知蒙昧にも耐え、微笑で返すもの
Be yourself no matter what they say ☆
誰に何を言われようが "自分自身" であるべきだ

※~※

Modesty, propriety can lead to notoriety
謙遜や礼儀正しさが、逆に悪評を招くこともあるのかもしれない
You could end up as the only one *6
仮にそうであっても、唯一無二の者として死んで行ける
Gentleness, sobriety are rare in this society
穏やかさや真面目さは今の社会では稀なもの
At night a candle's brighter than the sun *7
暗い世の中だからこそ、ろうそくの火は太陽よりも明るく輝く

Takes more than combat gear to make a man
男らしい男になるためには、戦闘服だけでは足りない
Takes more than a license for a gun
銃の免許証だけでは足りない
Confront your enemies, avoid them when you can *8
敵には正面から立ち向かうが、出来得れば対決を避ける
A gentleman will walk but never run
紳士は意志を持って歩く。決してあたふたと走らない *9

☆~☆

※~※


備考
  1. ※英語では "drink/have tea/coffee" が一般的で、"take tea/coffee" はイギリスの古風な言い方で現代ではあまり使われないらしい。あるいは、"take tea" はイギリスの "軽食を伴ったお茶" の習慣を指すともとれるらしい。 ただし、ネット検索で得た情報なので誤っているかもしれない。
  2. ※「ブリテン島住人であるイギリス人」ならば British と使いそうなので、englishman はウェールズ人やスコットランド人ではなくイングランド人であることを明示した言い方のように見える。
  3. legal alien : 合法的に入国した外国人
    illegal alien : 不法在留外国人、不法入国外国人、不法入国者
    ※ここで何故あえて「合法的に入国した」と強調しているのだろうか。
    ※イギリスでは16世紀より肛門性交は重罪とされ1861年まで有罪者には死刑が科されていた。成人男性間の性交渉は、イングランドとウェールズで1967年に、スコットランドでは1980年に、北アイルランドでは1982年に合法化された。このような法制度の影響もあり、イギリスでは同性愛者に対する偏見や差別がかなり強かっただろうと想像できる。クェンティン・クリスプが渡米したのは1980年であるから、その十数年前までは同性愛は違法であったことになる。スティングが「合法入国」を意味する文脈での legal に他の意味を付与したかったのかどうかは分からないが、「合法であろうと違法であろうと、自分はどこにいても "alien よそ者" である」という "孤高の誇り" のような意志を込めたかったのではないだろうか。
  4. maketh : 古英語で make の三人称単数現在形。現代英語の makes に当たる
    Manners maketh man : 礼儀作法が人を作る、人はその振る舞いによって判断される
  5. man : 男らしい男、一人前の男。(形容詞的に)男らしい性質
    It takes ~ to do : …するには~を必要とする(It takes courage to do that それをするには勇気がいる)※この一文は英語のできない私の感覚だと "It takes suffering and smiling to be a man." と書きたくなるが、これだとあまりにぎこちない英文である感じは分かる。従って、"~" と "…" が逆になっても、意味は変わらないと考えたが、もしかしたら間違っているかもしれない。
  6. ※ could は仮定法であり、"現実" ではなく "想像" であることを示している。
  7. ※おそらく night は前行の society の隠喩なのだろう。「あなたのような男らしい紳士は、世の中を明るく照らす、小さいけれども稀で貴重な存在である」と言っているようだ。
  8. confront : 直面する、立ち向かう、敵対・対決する
  9. ※この1行は、前行からのつながりで、例えば「対決を避ける場合にも慌てて走って逃げたりするのではなく落ち着いてゆっくりと立ち去る」、あるいは「緊急事態にも、動揺して闇雲に走り出したりせず、冷静沈着に対処する」などのイメージではないだろうか。



 1987年のアルバム "...Nothing Like the Sun" より。公式動画に登場している老人は、クェンティン・クリスプ(1908-99)というイングランド出身の作家・俳優・モデルで、同性愛に対する偏見と風当たりの強かった時代から自らゲイであることを公言して生きていました。そして、1980年、72歳の時にイギリスからアメリカ・ニューヨークに移住し、その後の終生をアメリカで過ごします。
 複数のインタビューでスティングは、この歌は部分的にはクェンティン・クリスプを歌ったものであり部分的には自分の事を歌ったものであるという趣旨の発言をしています。その中で、印象に残ったスティングの言葉をいくつか引用します。
「クェンティンは心から敬服する友人なんだ。彼はこれまで出会った人の中で最も勇気ある人たちの一人だと思う」
「ゲイであることが物理的・肉体的にも危険だった時代から、彼は華々しくゲイであり通した。…(中略)…この歌は、そういう彼の独自性を正しく評価し称賛するものなんだ。ただ、一方で自分についての歌だとも言える。異国で亡命者のような生活を送ることは、物を書く人間にとってとても大切なことだ。一つには、外国人はそこの住人よりもその国を少しだけ曇りのない目で見ることができる。二つには、同時に自分の故国も以前より少しだけ曇りのない目で見ることができる。…(中略)…アメリカには僕がぞっとするようなものもある…外交政策とか宗教とか…、そして、たくさんの好きなものもあるんだ。ただ、僕は "同化" されることはない。僕はどこかに帰属したいとは思わない。そこの出身であると誇りを持てる場所から僕は来た。それだけで充分なんだ。一所に落ち着くというのは、僕にとっては、ある意味 "腐敗" という感覚と同じように思えるんだ」
「クェンティンは僕にとっての英雄なんだ。…(中略)…僕はクェンティンのような自分が崇拝する人物について書きたかった。これは "ゲイであること" についての歌じゃない。"決して順応せず、自分自身であり続けること" についての歌なんだ」
(以上、http://www.crisperanto.org/recordings/sting.html より)

 ここからは想像を交えた私的な解釈なのであまり客観性はありません。
 この歌の一番のモチーフはクェンティン・クリスプへの敬愛の念を表すことであり、スティング自身の経験や心情、思想は二義的であるように見えます。歌詞だけではこの人物がクリスプであるとは特定できませんが、公式動画に登場させたり、いくつものインタビューで彼のことを歌ったものだと発言しているのは、これはクリスプのための歌であると広く知らせたいという気持ちがスティングにあったのでしょう。ただ、それが実現すると、上のインタビューでもスティングが危惧しているように、ゲイを擁護する歌であると誤解を招く恐れがあります。スティングはクリスプがゲイであるから尊敬しているわけではなく、どんな非難や攻撃にも屈せず自分を貫き通す彼の生き方に憧れているのです。だから、自らが味わった異国でのホームシックや違和感、疎外感などを、クリスプの心情に重ねて表現することによって、クリスプ礼賛の思いをカモフラージュして、結果的に多少曖昧な内容の歌詞となっています。もちろん、自分の事を歌詞に込めた動機には、クリスプへの憧れ、少しでも彼の境地に近づきたいという気持ちもあったのでしょうが…。
 この歌詞にイギリスあるいはイングランドを誇りアメリカを軽侮する意思が含まれていると解釈する人がいるかもしれないので、念のために書いておきますが、たぶんスティングにはそういう意図はありません。コーヒーとかアクセントとかステッキとかは、いわばどうでもいい事であり、クリスプを描写するための単なる小道具です。また、歌詞の黒字部分はスティング自身の思想をクリスプの生き方に託して表したものですが、アメリカ人は礼節がなく無知蒙昧であると言っているのではありません。おそらくクリスプは生き難かったイギリスを捨てたのであり、礼節がなく無知蒙昧なのはイギリス人だったのだと思います。
 捨てた国ではあるけれども、生まれ育ったイギリスあるいはイングランドへの愛着や誇りなどは当然捨てられるものではなく、そのようなクリスプの複雑な心情とそれを想像するスティングの心情、その二つが表現された歌詞なのではないでしょうか。

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